トム・エバンス 22歳 (1947年6月5日生 1983年11月19日没) 
 
基本的に、僕は内向的です。見知らぬ部屋とか混雑したオフィスとか、そういった場所は嫌いです。例えば会話をしていても、誰かが僕を見ているんじゃないかと思い始めるとそのことばかり気になってしまい、話すべきことも忘れてしまいます。でもステージではまったく違います。たぶんそれは、ステージでは次に何が起こり、何をやるのかということを自分でわかっているからだと思います。 
 
この音楽の仕事は好きだからやっています。もう血となって体の中を流れているようなものだから、抜け出すことはできないでしょうね。スタートは、リバプールのカルダーストーンズというポップバンドで、1966年頃でした。地元では結構人気がありました。 時代はプログレに移っていますが、今でもリバプールの人たちは過去の栄光を夢見てただ座っているだけです。リバプールには以前のマージービートのような大きなブームはもう二度と起きないでしょう。 
 
バッドフィンガーは単なるロックンロールバンドです。でも僕はちっとも恥ずかしいとは思っていません。僕たちはアイビーズとしてアップルと契約しました。そしてビートルズのアップルにいるという優位性に守られていました。そういう状態でずっとやってきたのですが、結局自分たちの能力以上のことはできないと悟りました。無理してやってもそれは自分たちの本当の姿じゃないと。それでこの1年間、自分たちの持ち味である曲作りにかなりのエネルギーを注ぎました。毎週2曲、全員合わせると200から300曲を作りました。それ以前は正直に言ってまだ自分たちが持つ水準に達している曲はあまりなかったと思います。今聴くとそう思いますね。悪くはないけどまだまだだったと。 
 
アップルと契約してからマジック・クリスチャンで大きくプッシュされるまでの間、僕たちはたった1枚のレコードしか発売されませんでした。その曲「メイビー・トゥモロウ」はアメリカではヒットチャートになんとか入ることができましたが、イギリスではまったくダメでした。当時、かなり落ち込んでしまいました。僕たちはアップル・レーベルに相応しくないんじゃないのかと思い始めていたんです。でも考えてみると、失敗したのは自分たちのせいでした。僕たちはアップルに所属さえしていれば何もしなくてもポップスターになれるんだと勝手に考えて、何もせずじっと待っていただけだったんです。でも今はわかっています。ポップスターになりたいんじゃない。普通の生活の中で聴く人の心に響き続ける曲を作りたいと。 
 
現在、自由にできるお金がほとんどないんです。これまでにギグや旅費、家賃その他諸々かなりかかったし、それはこれからも続くわけで、考えていると憂鬱になってしまいます。今のところ週に5ポンドの生活なんですよ。あ、これを聞くとものすごく悲惨な生活で苦しんでいると思うかもしれないけど、そんなことはないんです。たまには気が滅入ってしまうこともありますが、ずっとそんなことばかり思っているわけではないんです。僕は音楽が好きで、僕たちの音楽には可能性がある。一度音楽を始めた者は、そんなに容易く離れることはできないんです。かつて、リバプールにいた時に一度、持っていた楽器を全部売ってしまったことがあるんです。もう音楽はやめようと思って。売り払った後、自分の周りを行き交うグループが何組もいました。彼らの楽器を見ていて、僕はすぐに引き返したんです。楽器は全部取り戻しましたよ。 
 
音楽的には、僕は単調なものは我慢できないんです。ブルースに近いものは好きですね。 
 
僕たちがアイビーズだった時、アップルにいたということには何の価値もないと僕は思います。でも僕たちは変ったんです。この1年間スタジオで演奏し、曲を書き、自分たちを見つめなおし、そして目標を見つけたということをみなさんに知ってもらいたいのです。僕たちはヘビー・ポップ・グループのバッドフィンガーなんだとみなさんに知ってもらいたいのです。  
Hits A Go Go 1970
 
 
 
 ピート・ハム 22歳 語る